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最高裁判所第二小法廷 昭和46年(オ)791号 判決

上告人 増田四郎作

被上告人 国

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人山田勘太郎の上告理由について。

原審の事実認定は、挙示の証拠関係に照らして、首肯することができないものではない。そして、右事実認定のもとにおいては、島田税務署長によつてなされた訴外三栄建設株式会社の訴外静岡県に対する請負代金債権の全額取立と上告人の主張する損害の発生との間には相当因果関係がないとして、上告人の右損害の賠償請求を排斥した原審の判断は、結局、正当として是認することができる。なお、島田税務署長による右請負代金債権の全額取立と上告人の主張する損害の発生との間の相当因果関係の存否が原審における審理の争点となつていたことは、本件記録に徴して、明らかである。したがつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原審の適法にした事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 小川信雄 色川幸太郎 村上朝一 岡原昌男)

上告代理人山田勘太郎の上告理由

一、第二審判決には、民事訴訟法第三九五条第一項第六号の理由不備又は理由齟齬の違法がある。

右判決は、島田税務所の訴外三栄建設株式会社が静岡県に対して有した請負工事残代金六五八、〇〇〇円の全額取立は超過取立であることから最終的にこれを違法だと断じ、右により被上告人の同県に対する仮差押の効力も消滅したことを認めながら結局超過取立と右仮差押の効力消滅との間には相当因果関係がないとし、その理由として諸般の事情から上告人並びに競合仮差押権者訴外永田育三は、共に仮差押の執行を取消し、同県より前記残代金五二二、七七〇円の任意支払を受けこれを上告人と右永田とで折半する趣旨の協定が成立していたことが容易に推測できるから、結局上告人の右仮差押の効力が存続していたとしても、上告人はその利益を主張しなかつたであろうと認められる旨述べている。

しかし先づ上告人が永田と共に右仮差押の執行を取消す協定をしたであろうとの認定自体控訴裁判所の独断であつてこれが根拠となる何らの具体的事実が無いばかりか、原判決はその二二丁目において永田が上告人をさしおいて抜け駆けをした事実をも認めているくらいであるから、仮にかかる協定がなされたとしてもかかる協定自体何が端緒で破棄されるに至つたかもはかり知れないのであるから一概に上告人が前記仮差押の利益を主張しなかつたであろうと論定するのは理由不備又は理由齟齬の違法があることを示すものである。

二、仮に原判決の右認定に理由不備又は理由齟齬の違法がないとしても右は相当因果関係についての法律解釈を誤るのみならず、第一審、第二審を通じ本件についての争点は終始、島田税務署の超過取立の違法性の有無がその重要点を成して来ており、同税務署の行為と右仮差押の利益消減との間の相当因果関係の有無は一度も争点とはならなかつた過般の訴訟経過に照すとき、控訴審判決が、同税務署の行為を最終的に違法だと断定しながら突如として右行為と右仮差押の利益消減との間に相当因果関係を欠くとして上告人の請求を棄却する所為に出でたのは、著しい釈明権の不行使ある違法があるものというべく(原審でこの点を問題にされたのならば上告人としても更に上告人の意思を確かめる等して別の事実を主張立証したであろう)而して上記二点のかかる違法は、原判決の結果に影響を及ぼすこと明らかである。

三、よつて原判決は破棄さるべきである。

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